何か異様な空気だった。
張り詰めている。
ビリビリと張り詰めて、今にも粉々に砕けてしまいそうなほどに脆弱なガラス張りの空気にただヒシヒシと不穏な闇が迫っていた。
「急いだ方がいいでしょうね」
仰ぎ見た月はそんな彼の言葉に同調するように翼を広げる。
向かうはただその一点。
その先にいる王の下。
美麗な円は浮かんでは消えを繰り返す。
けれど時折、銀色の円が湾曲する。
「ディーノ様!!」
黒々とした羽を伸ばしファルスは闇の空を蹴った。
不安を抱きしめたまま
ただ王の助けに入るために――
それを彼の王は望まないだろうということは分かってはいるけれど。
それでも失ってはならない唯一無二の存在。
至高の血脈をその身に宿す至高の存在。
純血なる偉大な王……ディーノ。
闇夜を切り裂くように青い月とその光の元を黒い影が走る。
ただ静かに
密やかに
二つの激しくぶつかり合う魂に向かって真っすぐに――



