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前方の暗闇の沼地からぬっと出てきたそれを見て
ディーノは引きつった笑みを控えるファルスに向けた。
「なんとも醜いもんだね。
作法も何もなっていない」
一撃。
ブワリと風を引き裂くその音に、ディーノは軽く舌打ちした後
「おまえはどうしたい?」
とちらりとファルスを見た。
ディーノ同様、前方から繰り出された拳を軽々とした身のこなしでかわしたファルスは
「無粋な輩の相手は私だけで十分です」
と答えて見せた。
「頼まれてくれるのか?」
「そのための存在ですから」
闇の壁を掠めとるような不快音にディーノは苛立ちながらも「頼む」と一言残し、さらに闇の深い奥地を目指して行ってしまった。
その姿を追うように獣がファルスに背を向ける。
瞬間、ファルスの黒の瞳が赤く輝いた。
「キサマの相手はこの私です!!」
闇の中にバサバサと羽ばたく音が響いたのはその直後のことだった。
月の光に導かれるように無数の黒い影が集まってくる。



