「愛しい女(ひと)。
どうか泣かないで。
私が必ずあなたに血(ブラッド)を捧げるから」
ロシュナンドの囁きに
地響きに似た音が一瞬ピタリと止んだ。
唸るような声が扉の隙間を
掻い潜ってロシュナンドの耳に届く。
『ブラーッド……
ブラーッド……』
「そうだよ、愛しい女。
もうすぐだよ」
フフフ……
薄い唇がくっと上へと持ちあがり
緑色の瞳がキラリと鋭い光を浮かべた。
扉から少しだけその身を離し
ロシュナンドは金色の髪を払いのける。
キラキラと髪の隙間から
光がこぼれ落ち
艶やかな彼の顔をより一層引き立てた。
黒い扉のその向こうから
再び地響きのような音がし始めるのを確認すると
ロシュナンドはくるりと扉に背を向けた。
深い紅茶色の椅子に
無造作に置かれた深い緋色のコートを掴むと
それを肩にかけ彼は部屋を後にした。
妖しの笑みを一つ残して……