建物の入口へ行こうと歩き出せば、後ろからヒールの音がゆっくりと、それも遠くなっていくのに気付いて振り返る。


「……どうかしました?」


「別に」


素っ気なく答えられて、また下を向きながらゆっくり歩く。


……手術した跡が痛くて、まだゆっくりとしか歩けないんだ。

手術後、初めて並んで歩くから、ついいつも通りに歩いてしまった。

「はい、」


ごめん、気付くのが遅くて。


手を差し出せば、その手をまじまじと見て今度は僕の顔を凝視する。


「ごめん、やっぱり歩いたら痛い?
もう少しだけ歩いたら、あとは動かなくて良いから」


先に入口に降ろして、なるべく歩かせないようにした方が良かった。

できれば沢山の距離を歩いた方が体には良いけれど

ずっと病院にいたのにいきなり外で歩いたら、疲れるよね。


「違う。傷が痛むんじゃない。
コレ。ブーツが歩きにくいだけ。でも……これで大丈夫だから」


そう言いながら、手を握る。


ニットの袖から少し出てる岡本さんの手が、しっかりと僕の手を握ってくれた。


「無理しないでくださいね」



痛くなったら、すぐに言ってくれて良いから。