ゆっくりと頷いた岡本さんに、さっき中庭で3人で話していた光景を思い出してまた笑ってしまう。


「……その調子です。なるべく動いた方がいいので」



早く退院する為にも、歩かないと。



返答は無かった。



「それじゃ、また明日」



一度深まってしまった溝は埋まらないだろう。



無表情か悲しい表情しかさせる事が出来なくて、僕はもう出ていこうと切り出し踵を返す。




「……高橋先生」



背を向けた時に、背後から聞こえた声。



何日かぶりの、岡本さんが僕を呼ぶ声。



まさか呼び止められると思っていなくて、驚きが隠せないまま振り返る。



「……どこに散歩に行ったのかは聞かないんですか?」


久しぶりに聞いた、一言じゃない岡本さんの声は、僕についての疑問だった。



どこに行ったか……。


聞いても良かったの?



いつもウザイって言われてたから、手術が終わってまで聞いたら気分を悪くするかと思って聞かなかったんだけど。



「どこに行こうが、もう発作は起きる事ないだろうし、先生には関係ないって事ですか?」


無言で返さなかった僕に岡本さんは続ける。

……関係ない?



「やっぱり何でもないです、今の忘れてください」


何も言えないまま、岡本さんは自分で話を終わらせようとして布団の中に消えた。