【完】君の笑顔






「ってかさ、どさくさに紛れてさっきあたしの事“心”って呼んだでしょ?」



叩いた頭を押さえながら思い出したように言う岡本さん。



……今更そこを言う?




「呼びました?」


「うん。ハッキリと」



ふーん。




あの時は咄嗟に……だった。



“岡本さん”よりも“心”の方が呼びやすかったから。



「……心の中でいつも呼んでるからつい出たんじゃないの?」



流すつもりだったのに、岡本さんさんはニヤニヤしながらこの話を引っ張って僕の耳元で囁いてきた。



思わず吹き出す。




「なんだ、やっぱり図星?」



口角を上げながら僕を見る岡本さん。




……残念だけど。




「違います。多分咄嗟の判断。“岡本さん”より“心”の方が短くて呼びやすいし」



本当に咄嗟に、呼び止める為に。



“心”って部分をわざと強調して言えば、岡本さんがピクっと反応したのが分かった。



そして、僕から顔を背けて写真を見始める。



「あれ?もしかして心照れた?」


さっき僕をからかおうとしたから。



いつもからかわれているから、ちょっと僕もからかってみたくなった。