この熱さはお酒のせい。

ねぇ、そうだよね。

だから、早く帰ろう。

お酒のせいに出来るうちに、一刻も早く立ち去ろう。

「私、そろそろ帰るね?」

立ち上がろうとした時、

ガシッ…。

腕を掴まれて座ったまま私を見上げる猛。

ヤメテ…よ。

そんな目で見ないで…

お願いだから、何も言わないで私を帰して…。

「な…なに?」

「……」

「…猛?」

名前を呼んだ途端、ハッと我に返り掴んでいた手を離した。

「ごめん…つい。」

「あっ、ううん。」

猛はハァーッと溜息をつきながら、耳の下あたりをポリポリとかいた。

「送るよ。」

「うん…」

さっきから目を合わせようとしない。

ずっと俯き加減で、猛のサラサラとしたブラウン色の髪が私に壁を作ってる。


店を出たのは午前1時すぎ。

冬でもないのに寒いと感じてしまう。

無言のまま歩いて…気づけばアパートの近くまで来ていた。

「もう、ここでいいよ。すぐそこだから…」

「あぁ。じゃぁ、また…」

「じゃぁ…ね…」

名残惜しそうに向き合ったまま一歩ずつ離れていく。

なんで…行かないの?

なんで向き合ったままなの?