「…猛の…ばか…ッ」

「は?!なんだそれ」

ばかだよ。

猛は…。

こんな時にそばにいるなんて。


今の私は冷静な判断が出来ないんだよ。

それを分かってる?


「…もう、知らないから…」

そのままギュッと抱きしめられた。

「知らないって…何が?」

ふふっと笑って、猛の腕から抜ける。


「付き合ってくれるんでしょ?」


冷蔵庫からビールをだして、グラスを出す。

「そのつもり。」

二人でソファに並んで座った。


何気ない世間話から始まって…

5本目のビールに手を伸ばす。


「なぁ…なんで我慢するんだ?」


「え?」


なに…よ、急に真面目な顔しちゃって。


言葉に詰まってしまう。

「麻乃?」


優しい瞳で見ないで…

優しい声で名前を呼ばないで…


そんなふうに優しくしないでよ。


猛を真っすぐ見つめたまま、我慢していた涙が…


猛の前で泣かないつもりだったのに。



涙が頬を伝う。


「おいで。」


両手を大きく広げて私を迎え入れる。


ごめんね…


また、秘密が増えちゃったね。