別れを告げたあの時を思うと、今が信じられない。

菜都を引き寄せながら足の間に座らせ、後ろからギュッと抱き締めた。



やっと手に入れたんだ―――…

その細い首筋に顔を埋め、抱き締めている腕の力を込めながら、そう実感していた。


色々と思い出していたせいか、妙に離したくない気分になる。

このまま、ずっと抱き締めていたい。


「あ、あのっ…、この状況はなにっ…」

突然の俺の行動に、菜都が腕の中で焦っている。

チラッと目をやると、その肌が真っ赤に染まっているのが見えた。

それに苦笑を漏らしながらキスを一つ落とすと、菜都の体がビクリと跳ねる。


「ちょっと…!!と、所構わずこういうことするのっ、よくないと思うの!」

「所構わずって……2人しかいねーだろ」

「で、でもっ、誰が来るか分かんないしっ!」

「誰もこねーよ。健司たちにも来るなって言ってあるし」

「そんなことわざわざ言わなくても!」


プリプリと菜都は小言を続けるけど、それでも俺の腕から離れようとしないのが可愛いと思う。


「いーだろ、これくらい」

「これくらいって!いつもこれくらいじゃ済まないじゃない!」

「そうか?」

「そうだよ!」


いつまでも小さな抵抗を見せる菜都に笑い、もう一度キスを落とした。




出会いから今まで、ずっと振り回し続けたが、今思えば、いつわりの関係を無理やり続けず、あの時一度別れてよかったのかもしれない。

気持ちが通じ合ったことで、菜都の態度があきらかに以前と変わった。

困惑や遠慮しか見せてなかった表情が、くるくると変わる。

笑ったり、怒ったり、恥ずかしがったり。

それだけで、俺の心は満たされる。

本当の菜都に触れたような気がして。


色々悩まされたが、これでよかったのだと思う。



―――あの時、偶然通りかかったのが菜都でよかった。



穏やかな昼下がり、そうしみじみと実感しながら腕の中にいる菜都をギュッと抱き締めた。













★おわり★