最初は、ただの通りすがりの女だった。




その場しのぎ。

サエコとかいうしつこい女から逃れるため。偶然通りかかった女を利用してでも、とにかく、この面倒くさい女から逃げたかった。

「彼女」という偽りを吐いて、この場をさっさと終わらせたかった。

それ以上でも、それ以下でもない。


ただ、利用しただけ。



俺の都合に巻き込まれたその不幸な女は、案の定、唖然とし、青ざめ、みるみるパニックを起こしていった。

まさか、こんなことが自分の身に降りかかるなんて思ってもみなかったんだろう。

分かりやすいほど、驚愕している。



「ちょっと待っ…!!」

もちろん、俺の事情を瞬時に察し、受け入れる対応力なんてこの女にはなく、当然のように拒絶を示してきた。

が、そこは想定通り。すぐさま口を塞いで黙らせる。


ふがふがしながら逃げようとしているが、我慢しろ、と視線で制する。

傍若無人な自分の性格。

この女に多大な迷惑をかけていると分かっているが、とにかく俺の都合しか考えていない。





その場しのぎ。

本当にその言葉通り、コトを進めた。


サエコから逃げたあと、その女は茫然と突っ立っていたが、いちいち説明するのも面倒だった。


……ま、二度と会うことも、顔を会わすこともないだろう。さすがにこの女も、事情を察しているはずだ。


頭に浮かんだのは「放置」。


大丈夫だろ、と判断した俺は、「わりぃな」と、放心したままの女に一言謝罪の言葉を残し、さっさと解放してそのまま立ち去った。






それが、その女――――原田菜都との、最悪で最低な最初の出会い。