――――――バタン…


玄関の扉が閉まる音が聞こえ、うっすらと目が開いた。


ぼんやりとした意識のまま時計を見ると、その針は午前3時を回るところ。


先生…またこんな時間に帰ってきたんだ…。


遅すぎる帰宅に心配するけど、今の私は睡魔には勝てず、再び吸い込まれるように意識が遠のいていく。


ゆっくりと、目蓋が閉じていった。



最近、先生の帰宅時間が遅い。こうして日付が変わるのも珍しくない。

もちろん、遊んでいるわけじゃないのは知っている。仕事で新しく立ち上げたプロジェクトが難航しているようで、めまぐるしい忙しさらしい。

金一郎さんと志銅さんの情報によると、先生はそれを指揮する立場であり、仕事量が他の人の比じゃないくらい多いらしい。

「浮気じゃないから、結衣ちゃん安心して」って2人に言われたけど…。


まぁ、その心配はしていないけど、先生の体が心配だ。

私の前では何も言わないけど、やっぱり疲れているんじゃないかと思う。



カチャ…と静かに寝室の扉が開き、先生が入ってきた気配を感じた。

起き上がって「おかえり」って言うべきだけど、私の意識はほぼ夢の世界へと突入し始めている。


寝たままでいる「ダメ」な彼女に先生は近付き、サラリと髪を梳きながら、「ただいま、結衣」と頬に軽くキスを落とした。


あぁ…ほんとにダメ彼女だな…私。


意識の片隅で、起きられない自分に嘆いた。


先生はそんな私に気付くはずもなく、ベッドに腰掛けながら相変わらずサラサラと私の髪を弄んでいる。

その優しい感触が心地よく、さらに引き込まれるように眠りに落ちていく。



そして、しばらくすると先生は私から離れてスーツを着替え、寝室から出て行った。

おそらく、シャワーを浴びに行ったのかもしれない。