結衣との電話を切ると、部下が驚いた様子で話し掛けてきた。

「銀次さん、もしかして、今の彼女っすか?」

「ああ」

「いつも、そんな感じなんです…?」

「……なんだよ」


何か文句でもあるのかと思い、視線を鋭くしながら聞き返した。


「いや…。そんな甘い声、女子社員が聞いたら卒倒しますよ」

「……甘い?そうか?」

「自覚ナシっすか!?頼むから、社内で彼女と電話しないでくださいよ!」

「電話するなって…。俺の勝手だろ」

ったく…。


でも、確かに結衣と話していると、金一郎や志銅、さらに親父にまで、激甘だと度々指摘される。

そりゃそうだ。

唯一俺が愛情を注ぐ相手だ。自然と態度で滲み出てしまうんだろう。


そう1人で納得していると、部下が焦ったように話し掛けてきた。


「それより!祭りに行くって…、もしかして直帰ですか!?」

「いや、でも帰社して書類まとめたらすぐ帰る」

「ええっ!!待ってください!!さっきの、俺1人でまとめるんすか!?」

「俺がいなくても、それくらいできるだろ」

「そんなぁ~!!」

悲痛な声を上げながら、部下が泣きついてくる。

結衣との浴衣デートがあるっていうのに、部下を優先するわけがない。


「そもそも、祭りを勧めてきたのはお前だろ」

「まさか本当に行くなんて~!」


残念だが、俺を着火させたお前が悪い。

いくらすがってきても、すべて「却下」と突き放した。