もうしばらくこのまま抱き締めて堪能していたかったけど、突然モカは「ちょっと待って!」と声を上げて俺から離れた。

「モカ?」

「えーっと…えーっと…、」

そう言いながら鞄の中から取り出したのは、丁寧にラッピングされた小さなピンクの包箱。


「忘れないうちに。はい、和泉君!バレンタイン!」

ニコニコと笑って、俺にそのチョコレートを差し出した。

モカから貰えると分かっていたけど、やはり嬉しい。


「ああ、ありがとう」

もちろん素直に受け取ると、モカは照れながらも満足そうに微笑んだ。



「もしかして、もう他の女の子から貰った?」

「いや、全然。貰うわけないだろ」

「えー!信じられない!だって、高校の時は机にもロッカーにも靴箱にも詰め込まれてたのに!」

「そうだっけ?」

「そうだよ!……じゃあ、こ、告白とか、されてない…?」

少しだけ心配そうに訊ねてくるモカに笑った。

ちょっとは気にしてるってことだろうか。

不安そうにするモカの表情が嬉しくて、思わずその体を抱き寄せた。


「告白はされたけど、受け取ってない」

「……断ったの?」

「当たり前だろ。フッた」

「フッたって…。ちゃんと、丁寧に断った?冷たく返してない?」

「さあ、覚えてねえよ」

「覚えてないって…ひどい」


思い出したくもない。

せっかくのモカとの時間なのに、何でわざわざ違う女のことを思い出さなきゃいけないのか。


「それより、チョコ食っていい?」

「え?あ、うん…」

すぐさま話題をそらして目の前のチョコに目を向けると、モカもそれ以上聞いてくることはなかった。