「ああ…、……悪いけど、」

モカと出会う前の俺なら、間違いなくそのまま無視していた。けど、どんなに面倒でも無視はさすがにダメだと分かってきた。モカのおかげで。

そう思って、ちゃんと断ろうとした瞬間、その彼女はさらにズイッとチョコレートを差し出してきた。


「ほ、本当に大好きなんです…、すごく好きなんです。ずっと見てきました。黒崎君の好みの女の子になれるように頑張るから…、もし…、少しだけでも可能性があるなら、……私のこと考えてくれませんか?」


積極的な子だと思う。少々じゃ引き下がらないと、心に決めているのかもしれない。

でも、あいにく――


「可能性はないから。少しも」


考える余地なんてない。

俺の好みは、『浅野モカ』という女の子ただ1人に限定されている。誰かがモカの容姿に、雰囲気に近付こうとしても、到底敵わない。

『浅野モカ』本人じゃない限り、俺の心は欠片も動かない。


少々キツイかもしれないけど、きっぱりと言い切った俺に、目の前の彼女は涙を滲ませ始めた。

「お、お願いですからっ…。い、1日でも、…1時間でもいいからっ、私と一緒に過ごしてくれたらっ、」

「だから、悪いけど、」

「私っ、頑張るからっ。好きになってもらえるように…。……あの子なんかより、私の方が尽くすし、」


彼女の言葉に、ピクッ、と眉が動いた。



―――――『なんか』?



一瞬にして、目の前の女に嫌悪感が走った。


しかし、俺の逆鱗に触れたことにも、彼女は感情が昂ぶっているのか気付かない。



「好きになってもらえる自信ありますっ、だから、だから…、一回でも付き合ってくれたらっ…、」

「――――ふざけんなよ」

「え…」

「俺が好きになるのも、付き合うのも、今の彼女だけ。今、君が『なんか』呼ばわりした彼女だけ」

「そ、そんな…」

「二度と俺の目の前に現れるな」


そう言い捨てて、彼女に背を向けた。

すすり泣くような悲痛な声が聞こえるけど、振り向くはずもなく、足早にその場から去った。