自分がモテる人種であるということは、数々の経験から自覚している。

中身はともかく、どうやら顔がいいということも自覚している。

もちろん、それをひけらかすつもりも、利用するつもりも一切ない。俺の意思とは無関係に、周りが勝手に騒いでいるだけだ。

それに度々悩まされることもある。


こんな日は、特に―――…





「……黒崎君、ちょっといいかな?」

講義が終わり、教室を出た瞬間聞こえてきた控えめな声。

振り返ると、そこには、頬を少し染め、そわそわと上目使いでこちらを見る女の子が立っていた。


今までの経験と、バレンタインというこの日のせいで、これから起こりうることがすぐに分かった。

今日は朝からこんなことの連続だ。


うんざりする気持ちを抑えつつ、何も答えず目の前にいるその子を見下ろすと、かあぁっ!とさらに顔の赤味が増す。


「……あ、あの、実は、……初めて見たときから黒崎君のこと気になってて…、」

顔も名前も、何も知らない。

真っ赤な顔で告白されようとしているのに、心が一切動かない。嬉しいとも何も思わない。


「す、……好きなんです!こ、これ、受け取ってください!」

搾り出した声とともに差し出された、ピンクの包箱。

おそらく、……いや、確実にチョコレートだ。


普通の男なら、例え望んでいなくても「ありがとう」という感情くらい起こると思うが、俺には、めんどくさい、という感情しか起こらない。


モカという彼女がいるというのに、高校時代も今も、こんな風に何度も告白されてきた。

正直なところ、断るという行為自体も億劫でたまらないけど、自分も、「恋」という感情を知ってしまった手前、無下にするのも心が痛くなる時がある。

それに、ちゃんと答えないとモカにも注意されてしまう時がある。勇気を振り絞って告白してるんだから、と。


彼女として、その発言は心が広いというか、……なんというか。もう少し嫉妬してくれてもいいものを。



「あ、あの…、黒崎君?」

何も答えないまま考え込んでいたら、目の前の彼女がおずおずと顔を上げた。