「行ってきます。」

ちはるはイスから立ち、台所にいる母親に向かって言った。

「行ってらっしゃい!気を付けてよ。」

いつもはそんなことを言わない母親だったが、今日に限っては、ちはるの様子が変だと思ったらしく、少し心配している様だった。

「……。」

ちはるは返事をしかねた。何だか気をつけることができない気がした。

 家から一歩外に出て空を見ると、遠くに黒い曇がちらっと見えた。

 ――今日一日くらい、もつかな…。あんな遠いし。――

 ちはるは歩きだす。やはり体は重い。足に蛇か何か巻き付いているような動きにくさだ。