あしながおにいさん

‥そんな内に秘めた「激情」とは裏腹に、人目を感じ始めた僕は、美雨との直接的な接点である繋いでいた手を離してしまった‥。


ちらっと美雨を見た。ほっとしたのか、微かに強張っていたピンク色の頬が緩んだ。


「恥ずかしいから‥、もう手を繋がないでくださぃい‥」


語尾を延ばす癖も、無理矢理幼い少女を演じてるわけではなく、ごく自然にフィットしてしまう。


これが、俗に言う「萌える」ということなのだろうか。


傘は必要ないくらいの霧雨だったのが、少しずつ雨粒が大きくなってきた気がした。歩き回るよりまず雨宿りが必要なくらいだった。


美雨を連れて入るのだ、できれば小綺麗でおしゃれなカフェが‥



あった‥!



軽井沢や清里を思わせる、メルヘンチックな建物は、しゃれたフードモールになっている。


客もまばらでカップルだからといって関心を示さず、店員からも死角になるようなテーブルに二人同時に腰掛けた。



「何‥飲む‥?」小声で聞いた。


「アイスレモンティー!」

僕がびっくりするくらい快活に、しかも眩しいほどの笑顔で美雨はいった。


「わかった。ちょっと待っててね。買ってくる」同時に美雨は、自分の財布を取り出した。


「いいんだよ、僕のおごりだ」


「えー、でもアキさんに悪いです‥」


僕は、何かを言い返す代わりに、ゆっくり美雨に微笑んだ。


今日、夕方に美雨とどのようにして別れるのかわからない。けど、美雨、君のしぐさのひとつひとつをすべてを記憶したい。


前を見ないでつまずいたりする心配しなくていいなら、美雨、君を一日中見つめていたい‥。


歩き回っていても、話しをしてる時も‥。


君の言葉やしぐさは、一片の計算も働いていない。


素の君を、僕に見せてくれていると今の時点で確信した‥。まだ本当に面と向かって出会ってから数時間しかたっていないのに‥。