逢う日も決めた。時間も、待ち合わせ場所も決めた。

お互いの顔は知らないけれど、たいして気にならなかった。


お互い逢う前に見ておきたいとか、そんな感情は湧いて来なかった。容姿を気にかけるより心に惹かれ合っているから。


僕は少なくともそう思えた。


このままメールだけを続けていると、どこかで伝わらない部分があってぎくしゃくしてしまうのを避けるためにも逢ってみたいと思った。


美雨は辛いことも楽しいことも彼と共有するしかないと言っていた。


普通のカップルならそれでいいはずだ。むしろ回りが見えなくなるほど恋に盲目になっている証拠…。



でもそこがどうにも最大の悩みどころらしい…。逢うこと自体は正直嬉しい。こんなにあっさり承諾してくれるなんて夢のようだ。


でも、このうきうきする気持ちや態度を、他人に見抜かれることはないだろう…。


何かがその高まる気持ちに、いい意味での歯止めをかけてくれている。


それは…、僕も美雨も、お互いの立場では許されぬ裏切り行為であると認識している冷静な自分達もいるという事実だ…。


美雨も今、僕と同じように葛藤しているにちがいない…。

ついにその日が来た。



7月12日、土曜日。


朝から小雨がぱらついていた。メールで美雨が言ってた。私は雨女なの・・。


今日の雨ほど気にならない雨はないだろう。途中傘も差さずに、濡れてきた。雨粒さえ、彼女の優しさを表しているかのような、そんな気分だった。


大人な僕は、そんな少年少女の初恋のような気持ちも、ふっと我に返って冷静な考えを持ってしまう。


雨粒と美雨を同化させるくらい俺はロマンティストだったか・・?とか。


素直にこの喜びを表現できなかったり、この幸せを誰にも自慢できなかったり、結局は陰鬱な気分になっていく自分もいた。