びゅっ――――
虚空が切られる音がした。
風が髪を払い。
首に硬くひんやりとした刀が触れる。
砂柚は身体を強張らせた。
「もう一度聞きます。貴方は何者ですか?
さっきまで貴方の気配は感じなかった。」
絶えない笑みであるが、その瞳は鋭い。
つまり、新撰組で一位二位を争うほどの剣客である沖田から気配を微塵も感じさせなかったのだ。
つい先程、傍に寄られるまで。
ただ者じゃない。
沖田を警戒させるには十分である。
「そ、それは…。」
だが、砂柚は答えない。
自分でも何時、此処にいたことさえ分からないのだ。
分かるのは、これが現実だということ。
そして、自分がタイムスリップしたということだけ…。
新撰組と言えば、幕末で活躍した組織で有名だった。
「組長…もしや、その珍妙な着物。異人では!?」
この時、砂柚は高校のブレザーを着ていた。
「それはないでしょう。どう見ても日本人です。だけど、その着物は気になりますね…。
どこで、手に入れたんですか?」
「…………。」
押し黙る砂柚に沖田は、判断しかねる。
かつて、こんな奇妙な恰好をした人間は見たことがなかった。
ましては、沖田は頭脳派ではない。考えることは苦手だ。
考えあぐねた挙げ句…
「では……仕方がありません。屯所までご同行願います。」
頭脳派で鬼副長とも呼ばれるあの男に任せよう。
沖田は砂柚の手首を引っ張り歩き出す。
