車は一般道路を走っている。この車にやくざが乗っているなんて、誰もわかるわけがないだろう。 こんなに普通の空気に溶けこんでいる。 車は渋滞につかまることもなく、スムーズに動いていた。 そんな中、私と榊さんの会話を聞いていた要さんが口を開いた。 「ユキ、『正人』って名前が嫌いなんだよ」 「え、そうなんですか?」 「『俺は“正しい人”なんかじゃないから』、だってさ。」 「…へぇ…」 「だから、あいつの前で『正人』は禁句なの。綾芽ちゃんも気をつけて?」