亘は小説に出てくる街を歩いていた。あの少女はいつもこの街の喫茶店に通っている筈だ。古風で、センスのいい喫茶店。置いてある本や流れている音楽も統一感があって良かった。そこで三時間以上待ったが残念ながら少女は現れなかった。落胆しながら歩いていると、喫茶店に向かう人とすれ違った。それはまさしくあの少女だった。ハッとして振り返ると、少女は忽然と消えている。今のは幻だったのだろうか。呆然と立ち尽くしていると、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。