「……蒼ちゃんが彼氏だったら良かったのに」



そしたらきっと不安なんて感じない。



華やかな善雅くんみたいに比べられて、釣り合わないとも言われない。



こんなに苦しくならないのに……。



思わず口をついて出た瞬間。



「あっ」


「っ善雅くん!」



息を切らせた善雅くんが後ろに居て、黙ってわたしの右手を掴んだ。



呆気に取られる蒼ちゃんとわたしに構わず、



「ぜ、善雅くんっ!」



右手を掴んだ善雅くんは何も言わずにわたしをその場から連れ去って行ってしまう。



何度呼びかけても善雅くんは振り返らない。

その代わり、掴んだ手に込める力がドンドンと強まっていった。



そして、マンションの手前に差し掛かった時。



「……今の本気?」



立ち止まった善雅くんが低い声でポツリと呟きゆっくりと体を翻した。



その表情は今まで見たことが無いくらい冷たくて、心臓がキュッと痛くなる。



わたし……傷付けたのかもしれない。