「〝これ〟に何かを求めてはいけませんよ

どうせ出来損ないなんですからね」

ああ、また聞こえる

暗い暗い牢獄のような世界

こんな世界、無くなってしまえばいいのに

「修哉は何も気にしなくていいんですよ?」

多分、この傷のことを言っているのだろう

弟…修哉はチラチラと気の毒そうにこっちを見る

全く、いつものことなのに

「ご馳走様」

「食べたなら、さっさと自分の部屋に行きなさい」

「分かっています。お母様」

自分の分の食器を全て洗い、部屋に戻る

部屋っていってもまるで物置のように狭いけれど…

「はぁ…」

小さくため息が漏れる

こんな事はいつものことだ

この家は超がつくほどの名門で、跡取りになれない女の自分に必要価値は無い

尤も、修哉が生まれてからは大分マシになったけど…

「姉さん?」

小さく聞こえる囁き声…修哉だ

「どうした?

こっちに来たらあの人に怒られるよ?」

「父さんが帰ってくるって」

素早く、たった一言だけ囁かれた言葉だったけど

理解するのは容易だった