ラビットクリニック



お弁当を食べ終えたわたしは、全身鏡を拝借して、身なりを整えた。

もちろん、"歯医者さん"だから、歯磨きだって怠らない。


いつも持ち歩いている携帯歯ブラシを片手に、同じく備え付けの洗面所も拝借する。

最近は、可愛くて持ち運びが便利な歯ブラシの品揃えがよくて、今使ってるやつだってお気に入りのひとつ。



こうしてある程度の事を終わらせたわたしは、荷物を置きにロッカールームに寄った。



「あら、今日も"先生のとこ"だったのぉ?」

毎度のごとく、嫌みったらしい声。

視線を向けると、そこには、隣りのロッカーの持ち主である榊(さかき)がマスカラを片手につん、と鼻を鳴らしている。


「聞いてるのぉ?いい?あんたみたいな能無し、構ってもらえるのなんて今の内よ。…ったく」

そう言いながらも、バッサバッサと榊の瞼は質量を増していく。


まだ、塗るんだ…。


榊の生命線は多分、マスカラと真っ赤なルージュなんじゃないかとさえ、思えてくる。