先生はすっと、スマートにソファから立ち上がった。
その所作はまるで、1秒前の出来事なんて感じさせない。
「せ、せんせ?」
「そろそろ行かなきゃ。お弁当、次の休憩の時に食べるからそのままにしとくけど、大丈夫だよね?」
「は、はい!多分、腐ったりとかはないと思うんで……」
一体、何だったんだ。
空の段ボール箱を持たされた時のような、手持ち無沙汰な感覚がわたしを襲う。
「本当にいつもありがとう。みいは、いい子だね」
そんな、お弁当だけでそんなに誉めてもらえるなんて、ここに呼んでもらえるなんて、割が合わなすぎる。
先輩たちから睨まれる道中の分を差し引いたとしても、だ。
先生はわたしを喜ばす術を、知り尽くしてるんじゃないか、といつも思う。
でも―…
「みい、ごめんね」
ドアノブに手を掛けた先生が立ち止まる。
「みいと、キス……"試しに"、なんて出来ないよ」
バタン―……
でも、先生は時に残酷だ。
思い上がらせて、突き落とす―…
それなら、構ってほしくないと思いながらもわたしは、先生を求めてやまない。
これは、一種の中毒に違いない―…


