「あんたはさ、亜矢子の何を知ってるの?
あんたにほんとのこと、全部話した?
ねぇ、亜矢子のことなんて何も知らないくせに、ここに来たんだろ?」
掴んでいた手に力がこもる。
動揺を隠すように、
さらに強く。
「俺は暴力が嫌い。離して?」
俺の目線に合わせて冷たい目で見られる。
嫌々ながら、パッと手を離し
目を伏せた。
「亜矢子の親父はさ、院長…あんたの父親が殺したんだよ。
知ってた?」
「…親父が、殺した?」
「やっぱ知らないかぁ。」
そう言うなり、
頭の後ろで手を組み
リビングを歩き出した。
「あんたの親父はね、愛人がいたんだよ。」
「…愛…人?」
「うん。それでね、愛人がやらかしたんだ。
患者の子どもを殺しちゃったの。
それを亜矢子の親父のせいにした。
つまり、濡れ衣を着せたんだ。
最低だよね、あんたの父親。
自殺に追い込んだんだよ?
愛人の存在がバレるのを避けるためにさ、
子どもの命なんて、どーでもよかったんだ。
自分のことばっか。
そして……」
眼光が開くのがわかる。
「亜矢子は一人ぼっちになった。」
唇が震えだした。
慌てて右手で押さえる。
知らなかった、過去。
ありえない、過去。


