君が必要とする限り



見覚えのある信号。
街並み。


記憶辿っていけば
そこにあるのはあの日の思い出。

車のドアを叩くように閉めて、
彼女の住む階へと進む。


震える指先を必死に押さえ、
鍵を差し込む。


ゆっくりとドアを開けると……









そこには、何もない。
あの日と全く違う景色があった。

「…亜矢子…」


自然と漏れた自分の声。


「亜矢子なら、もういないよ?」

それと重ねるように
知らない男の声がした。


ふと香る香水の匂い。


リビングへと足を踏み入れると、
窓際を見つめる、
1人の男性がいた。