けれど───・・。


「ちぃーちゃん、ちょっと顔貸してくれない? 時間は取らせないよ。すぐ終わるから」

「・・・・っ!!」


廊下に出たとたん、待ち構えていた先輩と出くわしてしまった。

春の頃、噂を一緒に否定してくれたときに見た、びっくりするくらい真剣な顔の先輩に・・・・。

すると。


「こっち。来て」


“えっ?”も“待って”も言わせてもらえないようなスピードで素早くあたしの腕を取った先輩。

あれよあれよという間に、先輩に腕を引かれて歩きだしていた。


一瞬だけサヤのほうを振り返ることができて、どうしよう!! と声にならない合図を送ったけど。

そのサヤは口をポカンと開けてただあたしたちを見ているだけで。

何か言うことも、追いかけることもできないようだった。





「着いたよ」

「・・・・」


そうして、手を振り払うこともできないまま連れてこられた先は、コクレン部の部室。

先輩が『部室』と言い張る、校庭の隅にぽつんと建っている見慣れたプレハブ小屋の前だった。