そんなあたしの横で、先輩は髪をモジャモジャにしながら言う。
「ダメだァ!! ごめんヌ、ちぃーちゃん!やっぱ“ちぃーちゃん”しか浮かばない!」
本気で泣きそうな顔なんかして、あたしにすがりついてきた。
てか“ごめんヌ”ってなに?
“ヌ”って噛んだの?
「ちょッ!先輩ッ!なにすんですか!! 抱きつかないでよ!! チカンッ!!」
「そんなぁ。ひどいよ〜、ちぃーちゃぁぁ〜ん・・・・」
「もうっ!泣くほどのことじゃないでしょうよ!たかがあだ名くらいでッ」
「だってぇ〜・・・・」
うざい・・・・。
うざい上に面倒だ。
今の“ヌ”に猛烈にツッコミたい気持ちをこらえ、すがる先輩をなんとか引き剥がす。
そして、諦め気分で「ちぃーちゃんでいいですよ」と言ってやる。
抱きつかれるのは、こんなおちゃらけ男でもさすがにドキッとしてしまうから。
それに、誰にどんなあだ名で呼ばれたって、本当は全然構わない。
会ったその日に“ちぃーちゃん”なんて呼んでくるから、ちょっとシャクに触っただけだ。