「……いいのか?」
「悪い奴なら倒すけどね」

 テイシンが両腕を頭の後ろで組んで明るく言った。

「待ってくれ……!」

 去ろうとした2人を引き留める。振り返ったベリルに戸惑いながら、

「最後に……1つだけ頼みがある。君の血を……少しだけ……くれないか?」

 君を忘れないために……懇願するように見つめるレクシェ。

 ベリルは無言で彼に近付くと、持っていた剣を左手の甲にその刃を緩く走らせた。

 血がにじむ。

「! ありがとう」

 レクシェはその手をやさしく持って、血を舐め取る。レクシェはその途端、ふるふると体を震わせて幸せそうな顔をした。

「ん~、なんという芳醇な味わい。春の草原のような清々しさと、夏の空のような……」

「ワインかーっ!」

 テイシンのツッコミが広いエントランスに響き渡った。