「……」

 手を伸ばしてみる。

「!」

 その腕を誰かが掴んだ。右に顔を向けると、そこにいたのはセシエル。

「……行くな」
「!」

 驚いて、すぐに小さく笑った。

「解っている」

 小さい頃から、どこからともなく呼ぶ声が聞こえていた。

 それは優しかったり、恐ろしかったり。声はベリルを求めて叫び続ける。

 それは、救いを求める手なのか。はたまた、力を得ようと狙う腕なのか……

 全てを抱え込んでいるその体は、この世ならざるものにも焦点を合わせてしまう。

 ドラゴン・ディナスにより知らされた己の正体に、声が聞こえていた原因を知る。

「いつ発つんだ?」

 遠くを見つめて動かないベリルに、セシエルは問いかけた。