癒しと攻撃の両方を持つ短剣。先日のコボルドとの戦いにも、この短剣が使われた。

 用途に応じて、短剣を媒介し魔法を放つ。その方が精神力を無駄に使わなくて済む。

 それぞれ個人差はあるが、サナにはその方法が最良だったらしい。

「貴殿は彼の事が好きなのだな」
「はい。とても」

 兄みたいな人です。

「さすがに父だというと怒られそうだし」
「はははっ」

 ジェイドはその言葉に、彼には父がいないのだと悟る。

「僕は、早くに両親を亡くして長老さまやベリルに色々と教わりました」

「!」
「強く生きる事も、彼に学びました」

 サナの瞳は真っ直ぐに前を見つめる。揺るぎない心。

 ベリルと同じ強い瞳に、ジェイドは目を細めた。

 空を仰ぐ事の多い流浪の民の目には、何が映っているのだろうか。

 この世の行く末か、討伐に選んだ者への希望の光か……ジェイドも天に目を向ける。

「……」

 討伐に選ばれた戦士たち。彼らに希望を託すしか……今の私には出来ぬ。

 ジェイドは奥歯を強く噛みしめた。