馬車の窓から女性がペコリとベリルとヴァラオムに挨拶する。

 ヴァラオムは馬車の中に促され、ベリルはそのまま馬に乗って後を追う。

「麗しいお二方ね」

 女性がヴァラオムに言った。

[奥方もお美しい]

 お世辞は違和感なく。

 女性は照れたように視線を泳がせる。淡いピンクのドレスに、見事な栗毛の後ろ髪をアップしている。30代半ばだと思われる。

 主人が忙しく、代わりに街に用足しに来たとの事だ。

「お名前をまだ聞いてなかったわね」
[私はヴァラオム。あれはベリルだ]

 外のベリルに指を指す。

 奥方の名はマリレーヌ。街から南にいる領主の娘で、西の領主シェラバルの元に10年前に嫁いだ。

 マリレーヌはベリルをじっと見つめている。

 ヴァラオムの姿も見惚れる程だが、ベリルのどこか不思議な雰囲気に人は惹かれるのかもしれない。