「すぐに追っ手を!」
「よい! もうよいのだ」

 側近の言葉を制止する。リュシス王は深い溜息を吐き出し玉座に体を預けた。

 そしてクスッと笑う。

「久しぶりに叱られた気がする」

 まるで母が諭すように、父が叱るように、それでいて恋人の甘言(かんげん)のように……

 リュシスはベリルの瞳を思い起こす。

「不思議な御仁だ」

 王宮から離れて、ベリルは指笛を鳴らした。

 厩舎にいたベリルの馬はその微かな音を聞き取り、するりと抜け出して走り去る。

 追いついた馬にそのまま飛び乗った。

「わあ……」

 ユリエスは、見たことも無い景色にまばたきを忘れて見入った。

[空からの景色ばとうだ?]
「凄い……」

[では、しばらくお前を乗せて飛ぶとしよう]

 少年はその眺めを心に焼き付けた。