カナンはあたしに背中を向けて歩き出した。
「待ってよ!」
思わず、腕を掴んで引き止める。あたしだって知りたいよ。自分のことが分からないなんて、いや。
…でも、あたしはすぐに後悔する。振り向いたカナンのあたしに向けられる表情が、とても冷たいものだったから。
なんの綻びもない、精巧な人形のような。
そんな表情を自分に向けられたことに、何故か胸を痛める。
背中に寒気が走って、掴んだ腕を離す。
「お前は余計なことは考えなくていい」
呟くように、言葉を発しながら歩きだすカナンを、あたしは今度こそ追えなかった。
なんだろう、この感覚。
お父さんと別れた時も、こんなだった。寂しくて、悲しいという気持ちだ。
どちらも、必要ないもの。
カナンがあたしに何も教えてくれないのは昔から。
『どうせ、お前には理解できないよ』
今は違うよ。ちゃんと理解できるように努力する。だから教えてよ。
そう思うのに、言葉が出なかった。
あたしだけ何も知らないのはいや。
でもカナンに突き放されるのは、もっといや。
だからあたしは命令通り動かなきゃ。


