アナタがいたから

(でも、貴女には他にもとても大切なものがあったはずよ……)
<大切なもの?>
≪大切なものなど無い!≫
(砂我羅さんに貴女がどうされたのか、それを私は知らない。そこには怒りや悲しみ、色んな感情が渦巻いたかもしれない……その中での安らぎはこの庭だったのかもしれない……でも、それだけかしら?)
<何が言いたいの?わからないわ……>
≪……≫
(貴女をずっと見つめていてくれた人はいない?)
<私を見つめてくれた?>
≪そ、そんな者!≫
(そうね、貴女は気づいていないんだわ。だからこうしてこの場所に留まり、怒りに身を任せてしまっている)
<私が気づいていない?怒りに身を?>
≪意味の分らぬ事を!!≫
(えぇ、怒りに己の身を……それはとても悲しい事だわ)
<悲しい……>
≪言うな……言うなぁ!!き、聞きたくない!!≫
私の言葉に怒りの声は恐れるように、必死で私の言葉を止めようと、私の体をより締め付け痛めつけて来た。
(くっ!貴女の死に涙し、未だ貴女を想う人がいる……気づいていないはずは無いでしょう?ねぇ、悲しみと怒りは貴女の本当の心じゃない。貴女がココに心を残したのは……本当はもっと別の事が言いたかったからでしょう?)
私の目の前にある2つの存在が、私の言葉に反応して揺れ動き、悲しみに涙していた声が徐々に大きな存在になって、私から発せられたオーラと共に先ほどまで大きく占めていた怒りの存在を包み込んでいく。
<……私は言いたかった……>
≪や、止め……ろ……!!くっ……くわぁ!≫
怒りの感情は、本来あるべき感情と私のオーラにすべて飲み込まれて、私を締め付けていた痛みも消え、そして、私はふんわりとした優しい空気に包まれた。
<私は言いたかったの……でも、もう、言えないわ……>
優しい空気はそのままに、その声は悲しみに満ちていて、私はその声に向かって言う。
(大丈夫よ……私が、力を貸してあげるわ)
私がそういったと同時に、私の胸にある龍印が金色に輝き始めた。