アナタがいたから

(……あそこね)
重苦しいオーラはバラ園の一番奥にある美しい女の人の石像から溢れている。
石像の目の前に来て石造を眺めていると、後ろから燿君が声をかけてきた。
「……それが、母さんだよ」
「この人が。綺麗な人ね……」
「でも、凛。どうしてこの場所が分ったの?ココは庭の隅の方で簡単には……凛?」
燿君の問いかけに答えることなく、私はオーラのあふれるその石像に手を伸ばす。
バシーン!
「うっ!」
ビリビリと痺れると言うよりも、ジワジワと締め上げ全身まとわりつくように走る激痛。
「凛!」
「ダメ!来ないで!!」
私に寄ってこようとする燿君を怒鳴り声で止め、私は更に石像に向かう。
キィィーン!!
一際激しく弾けた火花は、私の存在を、私がその場所に踏込むことを拒んでいるようだった。
手をかざした私の心の中に響いてくる声は2つ。
刺々しく、怒りを含んだ口調で言う≪来るな!≫という声と、痛々しく、悲しそうに泣き声じみた<助けて……>と言う声。
2つの声を聞くほどに、私は自分自身の中に沸きあがってくる力がある事に気付いていて、その力をどう使うべきなのか、それも自然と分っていた。
私は弱く聞こえてくる救いを求める声に向かって言う。
(貴女は燿君のお母さん?)
<えぇ、そうよ……誰?>
(私は凛。貴女にお願いがあってきたの……)
<私にお願い?>
(このバラ園を……この屋敷のお庭を、元のように、貴女が愛していた綺麗なお庭に戻したいの……)
私がそう言うと、悲しみの声は小さくなって、今度は怒りを含んだ声が私に答えた。
≪その様な事、して欲しいなどと思わぬ!!この庭は私の物!誰にも……誰にも踏み入れさせぬ!≫
怒りの声に私は体から澄んだグリーンのオーラを放つ。
そのオーラは私の目の前にある禍々しいオーラをゆっくりと、静かに覆い始めた。
(貴女の拠所はこの庭だけだったのね……。とても大切で、貴女にとってこの庭だけが自分を受け入れてくれる場所でもあったのね)
≪そうだ!この庭だけが私の安らぎだった!無理やり砂我羅に奪われた私が、唯一、自分の思い通りに出来た場所!誰にも私の庭は触れさせたりはしない……私の大切な庭を……≫
怒りの声は少しだけその口調を和らげはじめ、私は声にそっと言う。