アナタがいたから

「……根っからの助平」
思わず呟いた私の言葉に砂我羅さんはムッとした表情を私に向けたが、フンと鼻を鳴らして、近くの椅子に腰掛ける。
「我等とて、自分たちの力でどうにかなるものならばそうしている。だが、梟があのような事になり、侘瑠火に対抗する力などない我等は、古くから伝わるの伝承に頼るしかなかったのだ……まさか、こんなチンチクリンが来るとは思わなかったがな……」
(ホント、マジでこのオヤジムカつくんだけど)
「父上、呼び出したのは我等ですよ。その様に言われては凛も気分を害しましょう」
翳さんが私が機嫌を損ねているのを察したのか、砂我羅さんに言い、その横から豹君が翳さんに言った。
「親父はチンチクリンだなんだって言ってるけど、本当は自分の思い通りにならない女が来たのが気に入らないんだろ?」
「?、自分の思い通り?(そういえば、梟さんもそんな事を……)」
「そう、親父の能力は異性を骨抜きにすること」
「……そんな能力、なんの役に立つのよ」
呆れ半分にボソリと呟いた私に砂我羅さんはチラリと私を見て言う。
「何の役にとは失礼な。戦う相手が女だったら、戦わずしてその場を治められると言う素晴らしい能力だ」
(単なる工口オヤジじゃない……)
自慢気に言う砂我羅さんの姿に多少呆れながら、私は溜息をついたが、そんな事よりも気になるのは梟さんの事。
すぐに頭を切り替えて、翳さんに聞いた。
「梟さんを戻す事は出来ないの?」
「……どの様な術をかけられたか、それが分らないのです」
「分らない?分らないと戻せないの?」
「えぇ、どの様な術であろうともその術にあった解除方法があります。下手に解除しようとすればかえって悪い状況を作り出す場合もありますから……」
沈んだ表情でそういう翳さんの言葉にはき捨てるように燿君が言う。
「死んでしまえば良いんだ……」
「え?」
「母さんの命を奪っておいてノウノウと生きてるなんて許されない……死んでしまえば良いんだ!」
「止めないか……燿……」
「っ!親父は……母さんのことなんかどうでも良いんだろ!女なんて沢山いるもんな!」
「燿!!」
砂我羅さんは大きな声で叫んで燿君をキッと睨みつけて言うと、燿君はビクンと体を揺らして、寂しそうに瞳に涙を溜め、唇を噛み締めたかと思うと、部屋を飛び出してしまった。