アナタがいたから

ツイッと翳さんは私を促すようにして立たせる。
「さて、我が鬼龍王(きりゅうおう)一族の皆さん、こちらが、我等が一族の光麗(こうらい)となられる凛殿です」
翳さんがそう言うと、そこの集まっていた人達は一斉に拍手をして、私を見つめる。
授業中でさえ、ココまで大勢に見つめられた事など無い私は一気に顔を赤くした。
(な、なんだか……大変な事になってるんじゃないだろうか……)
私はさっきまでの自分の勢いが嘘のように、この場に居る事が不安で仕方なくなってきて、思わず涙が出そうになる。
(だ、ダメ……人前で涙なんて……)
必死で涙を堪えようとする私の体はフワリと宙に浮いたかと思うと、目の前にニカッと笑う聖君の顔があった。
「もう良いだろ?翳兄貴」
「聖。お前はこういう時位、キチンとした態度でいることはできないのか?いつもいつも……」
「いいじゃん、固い事言うなよ」
「仕方ないな……。それでは皆さん、凛殿もお疲れのようですのでこの辺で。暫しはこの屋敷に滞在されますが、御用の最は父上か私を通してくださいますようお願いいたします」
そう言って深々と頭を下げた翳さんは、聖君を促すようにして私をその部屋から連れ出してくれたのだった。