アナタがいたから

「フム、親父殿も他の者達も……まったく、しようがないな」
ふぅと溜息をついた翳さんは私に優しい笑顔を見せて私の肩をグイッと抱きよせ、そのまま私をリードするように部屋の前に居る先ほどの偉そうなオヤジの目の前まで連れて行った。
(もしかして、気を使ってくれてるの?)
引き寄せられるその腕の強さにドキドキとしながら私は翳さんが歩けば歩き、座れば一緒にその場に座る。
「翳、お前は良い、下がれ」
私の横に居る翳さんにそういって、手をすっと横にかざしたオッサンに翳さんがニッコリ微笑みをたたえたまま言った。
「父上、全く何も説明されてないとか……幾らなんでもそれでは戸惑いましょう」
「これから説明するのだ。紹介をかねてな……」
「それではあまりに凛殿が可哀相では無いですか?突然この世界に連れてこられた上に、この大勢の前に何の心の準備も無く紹介されるのでは緊張もしましょう」
「そ、そうは言ってもだな。一族皆が集まって居れるのもほんのわずかな時間だ。使徒様には申し訳ないが……」
「では、紹介だけを済ませ、凛殿には別室で説明を聞いていただくとよいでしょう?」
「ムッ…か、勝手にしろ!」
(……このオッサンも翳さんには弱いのかしら?)
首をかしげながら見つめた私に、これでもかと言わんばかりの笑顔を向けてくる翳さん。
私は年甲斐も無く乙女のように胸をドキドキとさせていた。