アナタがいたから

「父親だろうとなんだろうと、初対面の人に対してその態度は無いでしょう?しかも!私はね、別にココに来たくて自分から来たわけじゃないのよ?なのにどうして私の方がこの人に頭を下げなきゃなんないのよ!」
「な、何だと?!」
「何よ!私の言う事は絶対間違ってないもの!どんなに怖い顔をしたって無駄よ」
思いっきり舌を出してアッカンベーをする私に眉を吊り上げ顔を赤くしたオールバックの後ろから大きな笑い声が聞こえて、皆がそちらを見た。
「アハハハ!良い根性してるじゃねぇか。こりゃオヤジの負けだな」
「うぐっ、聖(せい)!お前……」
「大体皆が悪いんだぜ?古の使徒の風貌を基にして勝手にイメージを作り上げてたんだから。正しいのはその人の方」
大きな笑い声と私を擁護する言葉を発しながら傍までやってきた『聖』と呼ばれた人物は、グシャグシャとした…ま~良い言い方をすれば髪の毛を無造作にあそばせた黒く肩まである髪に、適当にある物を羽織ってきただろうといわんばかりのよれよれシャツを来ていた。
(……だらしない、その言葉そのものって感じよね~)
あっけに取られる私を、聖君はチラッと見て、口を尖らせ少し考え込んで私に聞く。
「なんか、窮屈そうな服装だな。それ……」
「え?あぁ、スーツ?普通だと思うけど……って言っても世界が違うから普通も違うのかしら?」
「へぇ、異世界じゃその格好が普通なのか?」
「えっと……なんていえば言いかわかんないけど、働く女性がキチンとした格好をする時は普通というかなんというか……」
「ククク、面白いな。俺、アンタが気に行ったよ。俺は聖、アンタは?」
「り、凛……ってか、気にいったって何?!」
私が聞き返すと聖はまた楽しそうに大声でアハハと笑い、グイッと私を横抱きにして抱き上げチラッと皆の方を見て言った。
「どんな姿でも凛は俺達が呼んだ使徒様だ。こんな玄関先じゃなくって、ちゃんともてなすべきじゃないのか?」
「使徒様?ってか、もう呼び捨て?!」
「何?『ってか!』って流行なの?面白いね~ってか?」
私を抱いて屋敷の中に入っていく聖君に何だか馬鹿にされているようで、思わず聖君の両頬を横に引っ張ると「いてててっ」と声を漏らす。
暫く呆然としていた玄関先の連中はその聖君の声にハッとして、慌てて私達の後から玄関を入ってきたのだった。