冬のロマンス

 奇麗に包装された紙を解くと、雪の中に静かに佇む西枝邸を柔らかな色調で描いた一枚の絵画が出てきた。
 絵画の知識はないが、絵から零れてくる穏やかで優しい温もりを、哲平は感じる事が出来た。
 「・・・俺はお前みたいに自分で物を創造する事は出来ないからさ。幸に我侭言って描いてもらった」
「杉本さんに?」
絵画の世界の事は分からないが、杉本幸画伯は若いながら売れっ子である。1号に結構な値がつくと聞いた事も有る。いくら大学時代からの友人とは言え、沙成も大した我侭ぶりを発揮したものだ。
 「・・・自分の好きなもの、哲平にも見せたかったんだよ。雪の中に立つこの家も、幸の絵も、俺は大好きだから、おまえにも好きになって欲しかった・・・」
哲平はもう一度手の中の絵を見詰める。描いた人の技量も筆舌に尽くし難いものが有るが、その暖かな絵を自分にも見せてくれようとする沙成の気持ちが嬉しかった。
 貰ったばかりのキャンバスを丁寧に脇へ置くと、哲平は急に顔つきを改めた。不意の変化に、傍らに立ったままの沙成は戸惑う。