不法侵入者に沙成が叩きつけた推何は、しかし、当の本人の耳には届いていなかった。
 少年は思わず、カメラを構えてシャッターを切っていたのである…。
 屋敷を包む静謐な空気に負けることなく、さりとて空気を壊す事なく立っていた青年を、哲平は今まで見たどんな風景よりも生き物よりも美しいと思ったのだ。
 以来、暇さえあれば(なくても見つけて)哲平は、沙成のもとを訪れるようになった。
 もちろん目当ては屋敷ではなく、沙成本人だった。ストールを羽織って怒鳴りつけた青年に、哲平は一目惚れしたのであった。
 来客用に設けてあるパイプ椅子のセットを乗っ取って、哲平はハンサムな横顔をテーブルに押し付けた。
 ハンサムとは言うものの、哲平の一つ一つのパーツは取りたてて整っているわけではない。なのに、全体が揃うとなぜかバランスが取れているように感じられるのだ。