商店街の一角にある画廊・ウエスト。
 その裏…洋風の建物の前で、西枝沙成は待っていた。
 今泉哲平を。
 鉄製の門扉が開け放たれた庭へ、ことさらゆっくり哲平は足を踏み入れる。
 白銀の洋館。
 沙成が自信を持って〈好き〉と言うだけあり、それは本当に神秘的な美しさを惜しみなく人々に晒していた。哲平だって写真家魂が疼かないと言ったら嘘になる。
 だが、今哲平の目を捕らえているのは、そんな〈風景〉ではなく、ただ一人の人物。
 三段しかないコンクリートの階段の上で、扉を背に哲平を睨みつけている青年に、初めて会った時と同じように哲平は見入ってしまった。
 しかし、今度はいきなりシャッターを切るような無粋な真似はしなかった。
 横に長い長方形の庭を突っ切って、少年はその段上に上がる。
 神聖な儀式にも似た緊張。中世の騎士ならここで姫の手に接吻するところだ。
 不機嫌そうにも見える沙成に、哲平はにこ、と笑顔を向けた。
「メリー・クリスマス、沙成」
「メリー・クリスマス、哲平」
 しかめっ面は破顔し、泣き笑いの…でも幸せそうな笑顔で沙成はようやく哲平を迎えることができたのだった。