さっぱり、訳が分からない。
いきなりこんな所に居ることも分からないし、哲平の顔を見るなり逃げて行くことも、哲平にはまったく分からなかった。
 分からないなら聞けば良いだけだけど。
 陸上部が三年間欲しがった俊足でもって、今泉哲平は想い人の後を追い掛けはじめた。
 処女雪に小さな足跡を残して歩きながら、沙成は一度も彼を振り返らなかった。哲平がついてくるのを当然と言わんばかりに。
 沙成は背の高い方ではない。平均的な身長よりもいくらか低いくらいだろう。その小さな体で、ずんずんと大股で町を歩く。
 スピードを上げて彼に追い付くのは簡単だったが、哲平はそうしなかった。追い掛けっこみたいで、何だか楽しい。思えばまるで自分たちの関係その物だ。いつも前を歩くのは沙成で、哲平はそれを必死に追っている。それが悔しい時だってあるけれど、本当はそんなに気にすることではないのかもしれなかった。・・・だって、沙成は追いかけてくる事を待っているのだから。
 見知った道を通り抜けると、そこはやはり見知った場所だった。