「馬鹿たれ!変にヒーターなんぞ掛けたら絵が悪くなるわっ」
「軟弱だなー」
来た早々に「寒い」を連発した少年は、自分のことは棚に挙げて言い切って下さった。本当にこの馬鹿ときたら…!
 自称沙成の恋人・今泉哲平(いまいずみ てっぺい)は、近所の名門私立峰波学園に通う高校三年生である。写真を趣味とする彼は三カ月程前、ウエストの裏に価する西枝邸に無断侵入したという過去を持っていた。
 沙成の父が建てた屋敷は、大通りに面した画廊が近代的な無機質さを強調しているのに対し、裏の住居は赤い煉瓦を基調にした中世ヨーロッパ風に仕上げられている。庭も広く、彼が海外へ仕事で出掛けた際に仕入れた樹々が、屋敷を更に洒落たものにしていた。
 大通りに画廊があるのは知っていたが、なんの気紛れかその日に限って哲平はカメラを下げて、裏道に足を踏み入れ、くだんの屋敷を見つけたのである。
 まだ少し紅葉には早かったが、美しい風景は彼のカメラマンとしての心をくすぐった。それでつい、良いアングルを探そうと庭に入ってしまったのだ。
 「何してるっ?!」