大きなペーパーバックから、幸は一枚のキャンバスを取り出した。
 描かれているのは、雪の頃の西枝邸。
 それは、沙成が一番好きな風景だった。
 四季に様々な風景はあれど、白銀に包まれた家の明かりほど暖かい物はないと思う。
 そうだ。だからこそ、優しい風景画を描くこの友人に無理を言ってこの絵を頼んだのだった。大好きなこの家の風景を、哲平にも見せたくて。
 『写真一枚だから、ひょっとしたら正確じゃないかもしれないけど…でも、俺もこの写真の風景好きだから頑張ってみるよ』
 幸はそういって、素人写真から絵を起こすなどという沙成の我がままを聞いてくれた。
 「全力は尽くしたつもりなんだけどね。でも、注文された絵を描くなんて始めてだから緊張したよ」