哲平と知り合ってからは、沙成はよく彼を食事に誘った。沙成の作った物を哲平は大抵美味しそうに食べてくれる。手料理なんて、親にも食べさせたことがなかったから本当は心配だったけど。
 「沙成って、料理上手いな」
「おだてたって何もないからな」
「惜しいな、キスしようと思ってたのに」
とか言いながら少年は沙成を抱き寄せて、頬にキスしてくるのだ。唇へのキスは沙成が嫌がるから、しない。
 独りでは広過ぎる屋敷に、哲平は賑やかな明かりを灯してくれる…不思議とそんな錯覚を起こしてしまう時がある。秀宏は好きだし兄とも慕うほど信用がおけるが、こんな安心感は持てない。
 父母の生前だって、この家に独りで居ることは多かったけど、それでも今に比べればまだましだった。この世界のどこかに彼らは居たし、沙成は決して愛されていない子供ではなかったから。学校が長期の休みの時は必ず絵画の買出しに連れて行って貰ったし、父母が揃って出掛ける時はしょっちゅう電話やカードが来た。
 でも、今はそれもない。