美大在学中に二科展などで賞を取り、新人作家としてデビューを果たした杉本幸の作品を扱いたがる画商は多かったが、幸は自分の作品の売買はすべて<ウエスト>に一任していた。柔らかな風景画を得意とする彼のファンは多く、個展開催中の一週間は文字通りてんてこ舞いだった。
 「けど、明後日…哲平君に手伝って貰う予定だったんでしょう?」
「心配性だな、大丈夫だって。俺一人でどうにもならなくなったら、店閉めちゃうから」
我ながら良い案だななどと、空笑いをしながら、でも沙成は秀宏の明日からの休暇を取り消させはしなかった。
 大切な人だから優しくしたい。
 秀宏には、偽りなくそう言えるのに。
 …言葉が上手く綴れない。
 哲平の大馬鹿、ドアホ、ハヤトチリ…。
 俺は暇はないとはいったけど、一緒に居られないなんて一言も言ってないぞ。
 本当に、馬鹿なんだから。
 秀宏と別れてから沙成は、大量に余ってしまったホワイトシチューを一人で食べるはめに陥った。