「久羅奈家の名もそれだけ
知れ渡っているということですよ。」


「名は知れても、この家の事情は
分かっていないようだが」



瑠璃の髪を丁寧に梳かしながら

千代は顔をしかめた。



「それが久羅奈家の決まりでも
あるのですから、当然のことですよ」



瑠璃はその言葉に答えず、

庭の景色を眺めた。



「この梅の木は、一代目の節子様が
お植えになさったのですよ。」


「今朝、目覚めが良かった。
梅の花の香りのおかげかもしれないな」



梅の木に止まる小鳥を眺めながら呟いた。

鳥は次から次へと現れては羽を広げ

空に飛び去っていく。



「ええ、とても良い香りです。
ところで瑠璃様、そろそろ幸に
髪を梳かせさせてもよろしいですか?」


「何度も言うが、千代がよい。」


そうですか、と千代は困ったように笑うと
手慣れた様子で瑠璃の髪をまとめていった。